北川さんのご自宅は、飾ってある絵や小物だけでなく家具などにも細やかなトールペイントが施されていて、とても素敵な空間になっていますね。
北川さん:
部屋の一角をトールペイントコーナーにして、季節やイベントごとに作品を入れ替えながら並べています。リビングなど家族の共用スペースでは、トールペイントでの飾りつけは控えめにしているのですが、このコーナーは自分だけのお城。作品だけでなくお気に入りの小物やグリーン、お花なども一緒に並べて、日々楽しんでいます。また、陳列した棚の様子をモチーフにして、また新たな絵を描いてみたりすることもありますね。
(左)アンティーク調の棚に飾られた作品や小物の数々。北川さんならではの世界観。(右)写真(左)の棚をコーディネートして、模写した作品。よく見ると同じアイテムが描かれていることがわかります。
北川さんがトールペイントに興味を持たれたきっかけを教えてください。
北川さん:
学生の頃から、絵を描いてみたいという漠然とした思いを持っていました。16年前に長女が幼稚園に入り少し手が離れたことをきっかけに色々と調べてみたのです。当時はアメリカで流行したトールペイントが日本に上陸したばかりでしたので、雑誌などで目にする機会も多く、繊細なタッチや立体感のある絵に興味を惹かれ、すぐに教室に通い始めました。ある程度描けるようになるまでは無我夢中でしたが、とても楽しくて。毎日のように没頭していたので、主人は呆れて笑っていましたけれど(笑)。
全米デコラティブペインターズ協会(SDP)におけるMDA試験の課題として描いた作品。「合格の記念に、玄関の目立つ場所に飾っています。」
一般的な絵画とトールペイントは、描き方も異なると思います。トールペイントならではの技法や仕上がりの特徴を教えてください。
北川さん:
トールペイントのトール(Tole)は、フランス語でブリキという意味。元々はヨーロッパで発祥した伝統的装飾技法がアメリカに伝わり、発展したと言われています。日本では、ブリキはもちろん、ガラス、木材、陶器、布などあらゆる素材に絵を描くことをトールペイントと呼びます。紙やキャンバスなどの平面以外に、箱などの立体的なものにも自在に絵を描きますので、飾るだけではない実用的なインテリア、お気に入りの小物のリフォームとして、幅広く活用できるのもトールペイントの良いところですね。また、代表的なパターンをマスターすれば、合理的にペイントできるようにテクニックが整理されているので、慣れたら誰にでも上手に美しく絵が描けるようになります。私自身、基本のシェード(影)を絵に初めて入れたときの感動を今でも覚えています。先生に教わった通りの場所に入れた瞬間、絵がグッと立体的になり、見る人の目を惹く仕上がりになったのです。シェードひとつでこれだけ印象が変わるのですから、全てのテクニックをマスターしたらどんなに素敵な絵が描けるようになるんだろう。1日も早く習得したい!という一心で、制作に励んだことを思い出します。とはいえ、今でも100%思い通りの絵を描くことは難しいので、日々勉強だと思います。
金属にもペイントできる特性を活かし、古いランプシェードも華やかにコラージュ。観葉植物や英字新聞と合わせて、オリジナリティ溢れるインテリアに。
置き時計も、文字盤にバラを書き足せばますますエレガントに。幾重にも重なった繊細なタッチは、思わず溜め息の出る美しさ。
モチーフとされるものはお花などの静物が多いように感じますが、セレクトされる際のお好みや基準があれば教えてください。
北川さん:
祖父がお花とお茶の師範だったことが、好みに大きく影響していると思います。小学生の頃から私も習っていたのですが、静謐でスッと背筋が延びるようなお稽古の光景、たおやかでありながら力強く生けられた生花の数々が、美意識の原点にあります。静かに輝くモチーフの美しさを、筆を通じて写し取りたいという想いを常に持っています。
額縁の中にレースを張って、モダンなテイストを取り入れてコラージュ。小物入れには季節の花をペイント。