トールペイントの世界にもトレンドがあるのでしょうか。北川さんが注目している新しい技法やテクニックがあれば教えてください。
北川さん:
ペイントの道具は進化し、絵付けの手法も様々ですが、伝統的な良さはそのままに新しいものを取り入れていきたいと考えています。私の基本はやはりアメリカン・フォークアートにあるのですが、最近ではロシアのジョストボ村の伝統技法である、ジョストボにも惹かれています。プレートなどに鮮やかに絵付けした工芸品ですが、優美で生き生きとした仕上がりが魅力的で、いつかチャレンジしてみたいと思います。また、私の作品の持ち味はアンティークな雰囲気の中にもエレガントさを感じるところです。現代風なテイストを加味しつつも、更に個性に磨きをかけていきたいです。
(左)ダークな木目の家具に、鮮やかに浮かぶ大輪のバラ。同じモチーフを配することで、インテリアに心地よい統一感が。(右)家具やランプシェードに至るまで、細かく施されたペイントの数々。描く土台が変わっても仕上がりの美しさはそのまま。
最近は絵を描くだけでなく、コラージュを取り入れた作品を作っています。外国風のスタンプを押しておしゃれな雰囲気を出したり、レースペーパーや英字新聞などを貼って微妙な立体感や風合いをプラスしたり。ヨーロッパのアンティーク家具に興味があるので、テイストやエッセンスをプラスしながらチェストや椅子などの大きな家具にペイントすることも多いです。
(左)細やかなペイントとスタンプを絶妙にミックスした小物入れ。普段はレシピカード入れとして活用しているのだそう。
(右)ティッシュケースも、ペイントとレースのコラージュ、英文字スタンプでシックにアレンジ。
北川先生の教室に通われている生徒さんに人気の高いモチーフはありますか?
北川さん:
やはり一番はお花でしょうか。特に、バラの花がきれいに描けるようになることを目標にする方が多いですね。アメリカやヨーロッパ的なモチーフだけではなく「風神雷神図(江戸文化最高の絵師の1人として名高い尾形光琳の代表作)」など、和のモチーフを使って躍動的な作品を作る方もいらっしゃいます。また、若い方の中には、ネイルアートへの情熱が高じて、立体的な絵を勉強してもっと上手に描きたいとの思いから講座に来られる方も多いです。トールペイントの新たな可能性を感じました。
玄関や廊下の壁、各部屋のドアなど、ご自宅のあちこちにさりげなく配された作品たち。生活スペースにごく自然に溶け込み、安らぎをプラスしている。
最後に、トールペイントに興味があり、これから始めてみたいと思われている初心者の方にメッセージをお願いします。
北川さん:
生活空間を自分の感性で彩る楽しさを知ると、人生に新しい可能性が見えてくると思うのです。それぞれの感性を具体化するお手伝いが私の仕事ですし、やりがいを感じています。絵を描いてみたい、描くことが好き、という気持ちさえあれば、技術は必ず後からついてくる。今までに沢山の方を教えてきましたが、技術を習得すると皆さんの表情が生き生きと輝き出すのがわかります。描きたいものを自由に表現できる喜びを、ぜひトールペイントを通じて体験してみてくださいね。
優しい語り口が印象的な北川さん。トールペイント作品でコーディネートされたご自宅のコーナーにて。
キュートなハロウィンのカボチャは、北川さんのお気に入りアイテム。
英字新聞を使ったコラージュの技法で、クラシカルにアレンジ。